限定承認

相続人は、遺産の範囲内で債務を弁済したい場合、相続によって得た財産の限度において被相続人の債務を弁済するという旨の留保をつけて相続を承認する【限定承認】をすることができます。

限定承認は、相続財産が債務超過となっているか明らかでないため、相続放棄したほうがいいかどうか判断できない場合や、債務超過だけど家業の承継のため相続財産の一部だけは確実に取得したい場合等に有効な制度です。

ただ限定承認は手続きが相続放棄と比較して相当面倒なこと、専門家に任せた場合に一般に報酬が高いことから限定承認が選択されることはかなり少ない現状になっています。


手続きの流れ

・相談予約

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・相談

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・相続財産の確認
 相続財産の確認をします。この確認をしっかりしておかないと限定承認いた方がよいか否か判断できません。

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・限定承認申立書作成及び必要書類取得

 当事務所が書類の作成及び戸籍謄本等の必要書類の取得をさせていただきます。

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・裁判所に限定承認申立

 原則相続の発生から3か月以内に申立をします

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・照会書の受領及び回答

 限定承認申立をしてから約1週間から10日くらいで裁判所から限定承認に関する照会書が送られてきますので、必要事項を記載の上返送します。

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・限定承認申述受理審判書送付
 照会書の回答を提出してから、約1週間から10日くらいで裁判所から限定承認申述受理通知書が送られてきます。必要な場合は相続放棄申述受理証明書も取得します。 

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・限定承認者が唯一の相続人であった場合はその者が、共同相続人による限定承認の場合、裁判所が相続人の中から選任した相続財産管理人が、相続財産の管理及び清算手続を行うことになります。

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・相続債権者及び受遺者に対する官報公告及び催告

 限定承認者(相続財産管理人が選任されている場合、その者)は弁済の対象となる債権者、受遺者及び弁済すべき額を確定するために、限定承認した後5日以内(相続財産管理人が選任されている場合、その者の選任があった後10日以内)に、すべての相続債権者及び受遺者に対し、下記内容の官報公告をし、知れたる債権者には各別の催告をする必要があります。

①限定承認したこと

②一定の期間内(2か月以上)にその請求の申出をすべきこと

③期間内に申出の届出がない場合は弁済から廃除されること

 ※知れたる債権者は除斥できません。

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・相続財産の換価及び相続債務の評価

 相続財産に不動産等の財産がある場合、限定承認者は、これを換価します。この換価手続は、適正を確保するため、原則として民事執行法所定の競売により行われますが、限定承認者が買受けを希望する場合には、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した相続財産の価額を支払うことによって、競売ぜずに買受けることができます。(先買権の行使)

相続債権者の同意を得ることができれば任意売却により換価することができます。

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・相続債権者や受遺者への弁済

 限定承認者が唯一の相続人である場合はその相続人自身が、共同相続人による限定承認の場合は家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、公告で定めた期間の満了後、相続財産をもって、その期間内に申出をした相続債権者その他知れたる債権者にそれぞれ債権額の割合に応じて弁済しなければなりません。弁済の順序は次の通りです。

①相続財産について優先権を有する相続債権者

②前記①の者を除いた相続債権者

③受遺者

④申出期間内に申し出なかった債権者

⑤申出期間内に申し出なかった受遺者

 

※限定承認の手続中、債務超過が判明した場合、破産手続開始申立をすることができます(破産法224条)。実務上は、破産申立をせず、上記限定承認手続の中で清算していることが多いです。

 

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・残余財産の分配

 弁済が終了してもなお残余の相続財産がある場合、相続人間で遺産分割して取得する。


相続財産である不動産に対し先買権の行使をした場合の流れ

・限定承認者が競売手続の前に特定の相続財産の所有権を取得するために家庭裁判所に対し鑑定人選任の申立をします。

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・家庭裁判所は債権者に参加の機会を与えるために、その旨の通知をします。

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・選任された鑑定人により時価価額の評価がされます。

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・先買権を行使した者は、相続財産管理人に対し、鑑定額以上の金額で先買権を行使する旨意思表示し、この金額を相続財産管理人に対し支払います。これにより先買権行使手続が完了し、対象財産は、相続財産の債権者の債権の責任財産としての拘束から解放されます。

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・不動産登記をする場合は、限定承認は財産全てを相続人全員が一応相続するという形をとっているので、まずは法定相続による相続登記をすることになります。

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・【民法932条但書きによる価額弁済】を登記原因として、他の相続人から先買権を行使した者に対して、持分移転登記をします。

鑑定人による鑑定

通常、鑑定人には、不動産鑑定士、古物商等が選任されると思われます。この鑑定人の鑑定した当該相続財産の鑑定価額を確認したうえで、限定承認者は、価額提供したうえで、この相続財産を取得するか否か判断できます。

鑑定人の選任申立をし、鑑定価額が出たからといって、限定承認者は、価額提供の義務を負うことにはなりません。

鑑定価額が高すぎれば先買権行使を中止すればよいですし、妥当な金額だと判断すれば価額提供して先買権の行使をすればよいのです。

このように鑑定人の選任及び相続財産の鑑定は、限定承認した相続人にこの相続財産取得について判断材料を提供するに過ぎないものであり、相続財産の換価に直結しないことから、鑑定費用は鑑定人申請をした限定承認者の個人負担となります。


キャピタルゲインへの課税

限定承認の場合には、相続固有の相続税以外に、みなし資産譲渡所得税という譲渡所得課税が生じます。つまり、相続人が限定承認をした場合、相続を開始したときにその時の時価で、資産が譲渡されたものとして、その資産の価格上昇益(キャピタルゲイン)が課税対象とされています。このみなし譲渡所得税課税にも注意して限定承認を選択するか否かの決断をする必要があります。

キャピタルゲインが発生するのは、土地建物等の不動産の場合が多いですが、不動産には限られず、株式、有価証券等価格の上昇が見込まれる不動産全てが対象となります。

みなし譲渡所得税は、相続財産から支払うことになります。相続財産が、万が一納付すべき譲渡所得税の額に満たない場合でも、相続財産として残っている分だけ支払えば足り、不足分を相続人固有の財産から支払う義務は一切ありません。仮に税務署から多額の譲渡所得税の納税通知がきたとしても相続財産の範囲を超えて支払う必要はありません。この譲渡所得税は、相続税の計算上では、債務控除の対象となります。


必要書類

・申述人全員の戸籍謄本

・被相続人の出生から死亡までの戸籍類

・被相続人の住民票除票又は戸籍附票

・財産目録

※財産目録には、相続債権者及び受遺者の保護の保護を図るため、積極財産のみならず消極財産も明らかにする必要があります。申述人が知りながら相続財産の全部若しくは一部を財産目録に記載しないときは、限定承認の申述が受理されても単純承認したものとみなされます。

報酬・実費


【報酬】 別途見積もり

 

【実費】相続人一人につき 収入印紙 金800円

     郵便切手 金500円程度

     官報公告及び催告費用 相続財産の中から出せます。