相続放棄後の財産の管理

相続人が相続放棄すると、初めから相続人とならなかったとみなされます。この場合、相続人が管理していた相続財産はどうすればいいのでしょうか?

 

相続放棄した相続人は、自己の財産におけると同一の注意義務をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません(民法第940条)。

 

他に共同相続人がいる場合は、その者が相続財産の管理を開始してはじめて、相続放棄した相続人の管理義務が消滅します。

 

全ての相続人が相続放棄した場合には、管理を引き継ぐべき相続人が誰もいないことになってしまいます。この場合はどうすればいいのでしょうか?

 

相続放棄をすれば相続人ではないのだからもう関係ないとはいえません。相続放棄した相続人は、自己の財産におけると同一の注意義務をもって管理を継続しなければなりません。

 

この場合は、民法951条の相続人のあることが明らかでないときに該当するものとして、利害関係人又は検察官が申立人として、相続財産管理人の選任の申立をして、選任された相続財産管理人に財産の管理を引き継ぎます。


相続人全員が相続放棄したが、相続財産に家屋がある場合

相続人全員が相続放棄した場合、問題になるのが家屋の管理の問題です。この家屋に資産価値がある場合は、債権者がいる場合、この債権者が利害関係人として相続財産管理人を選任して換価して弁済を受けるという流れが考えれます。

 

しかし、家屋に資産価値があまりない場合、債権者が相続財産管理人を選任することで逆に費用倒れになる可能性があるので、不在者財産管理人の選任を誰もしないため、相続放棄をした相続人が相続放棄をしたにもかかわらず、家屋の管理をしなければならなくなってしまいます。

家屋は古くなると廃屋になり、崩れたり火事が起きたりすると近隣に損害を与え、管理者である相続放棄をした相続人が損害賠償の義務を負担する可能性もあります。そのため相続放棄をした者が、相続財産であった家屋をずっと放っておくのも不安が残ります。


そのため相続財産に家屋がある場合(特に資産価値が無い、若しくは低い場合)は、難しい問題になります。


相続放棄後、他の相続人が財産を引き継ぐまでの相続財産管理人

相続放棄をした相続人が相続財産の管理ができない問題(例、遠隔地等)がある場合、家庭裁判所は、利害関係人等の請求により、必要に応じて相続財産の保存又は管理に必要な処分を命ずる審判をすることができ、その中で相続財産管理人の選任もできます。


相続財産の保存又は管理に関する処分の効果は、放棄によって新たに相続人となる次順位相続人又は他の共同相続人による現実の管理ができるようになったら消滅し、家庭裁判所は、相続人、相続財産管理人もしくは利害関係人の申立て又は職権で、この処分を取り消すことになります。


相続放棄後、相続人不存在の場合の相続財産管理人

相続人全員が相続放棄し、相続人不存在の状態になった場合、家庭裁判所は利害関係人又は検察官の申立てによって相続財産管理人を選任し、相続財産を管理、清算、消滅させるとともに、最終的に国庫に帰属させます。(民法951条から959条)

⇒相続財産管理人選任の申立


相続人不存在の場合の相続財産管理の手続の流れ

1.家庭裁判所による相続財産管理人の選任及び官報による選任公告

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2.相続財産管理人による相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告、催告及び弁済

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3.相続人捜索公告

※相続債権者に弁済した結果、相続財産が無くなった場合、公告する意味が無いので、相続人捜索公告は必要なく、相続財産管理業務を終了するため相続財産管理人は家庭裁判所に終了報告を行います。

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4.相続人不存在の確定

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5.特別縁故者がいなければ、残余財産の国庫への引き継ぎ

※相続財産が第三者と共有状態の場合で特別縁故者もいなかった場合は、その共有者に帰属することになります(民法255条)。


財産が少額しかない場合又は、借金しかない場合

財産が少額しかない場合、相続財産管理人を選任して、その後の手続を行うためには、官報公告費用、相続財産調査費用、相続財産管理人の報酬、相続財産の管理費用がかかるので、これらの費用もない場合、相続財産管理人を選任する実益がないため、誰も相続財産管理人選任の申立をすることがないのがほとんどです。

 

借金しかない場合も、清算すべき財産がないことになり相続財産管理人を選任する実益がありません。相続財産管理人が選任され、相続財産が債務超過の場合は、相続債権者又は相続財産管理人の申立によって相続財産に対する破産手続開始決定がされます。

 

しかし実務上は、相続財産の破産手続の申立は極めて少ないです。理由としては、破産手続費用の問題、実務上相続財産管理手続の中での清算業務が可能なことが挙げられます。実務上は債務超過であったとしても、相続財産の範囲内で債権者に按分して公平に弁済し、その余りは放棄してもらう形で弁済手続きを終了させることがほとんどです。