組織再編と許認可

合併や会社分割といった組織再編を行う際、取得済みの許認可がどうなるか確認しなければなりません。

 

当然承継して事後の届出だけでいい場合、事前の許可・承認により承継する場合、承継しないため新たに許認可を取得しなければならない場合があります。

 

法律により合併や会社分割で許認可が承継する規定が無い場合は、新たに許認可を取得しなければならないのです。

 

許認可のことを考えないで、組織再編の手続だけ行うと、後で許認可が無いため営業ができなくなり大変なことになるので注意を要します。

 

法令や運用は変わる可能性がありますので、組織再編をする際は、ご自身で最新の法令や運用をご確認ください。


当然承継する許可の例


飲食店営業の許可は、当然承継

食品衛生法第53条1項

飲食店営業許可を受けた者について相続、合併又は分割があったときは、相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人又は分割により当該営業を承継した法人は、許可営業者の地位を承継する。

食品衛生法第53条2項

前項の規定により許可営業者の地位を承継した者は、遅滞なく、その事実を証する書面をを添えて、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。


特定貨物自動車運送事業の許可は、当然承継

貨物自動車運送事業法第35条7項・8項参照


貨物軽自動車運送事業の許可は、当然承継

貨物自動車運送事業法第36条3項参照


美容所の届出は、当然承継

美容師法第12条の2参照


第一種貨物利用運送事業の登録は、当然承継

貨物利用運送事業法第14条

第一種貨物利用運送事業者がその事業を譲渡し、又は第一種貨物利用運送事業者について相続、合併若しくは分割があったときは、当該事業を譲り受けた者又は相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人若しくは分割により当該事業を承継した法人は、当該第一種貨物利用運送事業者の地位を承継する。ただし、当該事業を譲り受けた者又は相続人、合併後存続する法人若しくは合併により設立された法人若しくは分割により当該事業を承継した法人が第六条第一項各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。


事前の承認・認可により承継する許可の例


風俗営業の許可は、事前の承認により承継

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第7条の2 

風俗営業者たる法人がその合併により消滅することとなる場合において、あらかじめ合併について国家公安委員会規則で定めるところにより公安委員会の承認を受けたときは、合併後存続し、又は合併により設立された法人は、風俗営業者の地位を承継する。

風俗営業等の規則及び業務の適正化等に関する堀津施行規則第14条

合併契約書作成後、風俗営業合併承認申請を公安委員会に提出しなければならない。

 

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第7条の3 

風俗営業者たる法人が分割により風俗営業を承継させる場合において、あらかじめ当該分割について国家公安委員会規則で定めるところにより公安委員会の承認を受けたときは、分割により風俗営業を承継した法人は、当該風俗営業についての風俗営業者の地位を承継する。

風俗営業等の規則及び業務の適正化等に関する堀津施行規則第15条

分割計画書又は分割契約書作成後、風俗営業分割承認申請を公安委員会に提出しなければならない。


旅館業の許可は、事前の認可により承継

旅館業法第3条の2参照


建設業の許可は、事前の認可により承継(令和2年10月1日施行予定)

改正後の建設業法第17条の2(令和2年10月1日施行)参照

これまでの旧建設業法では、合併や会社分割の際は新たに建設業許可を取得しなければなりませんでしたが、改正後の建設業法では、事前の認可を受ければ建設業許可を承継できます。


一般貨物自動車運送事業の許可は、事前の認可により承継

貨物自動車運送事業法第30条2項

一般貨物自動車運送事業者たる法人の合併及び分割は、国土交通大臣の許可を受けなければ、の効力を生じない。ただし、一般貨物自動車運送事業者たる法人と一般貨物自動車運送事業を経営しない法人が合併する場合において一般貨物自動車運送事業者たる法人が存続するとき又は一般貨物自動車運送事業者たる法人が分割する場合において一般貨物自動車運送事業を承継させないときは、かの限りではない。


第二種貨物利用運送事業の許可は、事前の認可により承継

貨物利用運送事業法第29条2項

第二種貨物利用運送事業者たる法人の合併及び分割は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。ただし、第二種貨物利用運送事業者たる法人と第二種貨物利用運送事業を経営しない法人が合併する場合において第二種貨物利用運送事業者たる法人が存続するとき又は第二種貨物利用運送事業者たる法人が分割をする場合において第二種貨物利用運送事業を承継させないときは、この限りでない。


一般旅客自動車運送事業の許可は、事前の認可により承継

道路運送法第36条2項

一般旅客自動車運送事業者たる法人の合併及び分割は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。ただし、一般旅客自動車運送事業者たる法人と一般旅客自動車運送事業を経営しない法人が合併する場合において一般旅客自動車運送事業者たる法人が存続するとき又は一般旅客自動車運送事業者たる法人が分割をする場合において一般旅客自動車運送事業を承継させないときは、この限りでない。


新たな登録や許可の取得が必要な例


旅行業の登録は、承継しないため新たな登録の取得が必要

旅行業法第16条に営業保証金について合併や分割があった場合、営業保証金の権利は承継すると記載されていますが、旅行業法第3条の旅行業の登録までは承継される記載がはありません。


宅地建物取引業の免許は、承継しないため新たな免許の取得が必要

宅地建物取引業法の中に、宅地建物取引業法第3条の免許について合併や分割により承継される記載がありません。


労働者派遣事業の許可は、承継しないため新たな許可の取得が必要

労働者派遣法の中に、労働者派遣事業の許可について合併や分割により承継される記載がありません。労働者派遣事業関係業務取扱要領参照


有料職業紹介事業の許可は、承継しないため新たな許可の取得が必要

職業紹介事業に関し規定している職業安定法の中に、有料職業紹介事業の許可について合併や分割により承継される記載がありません。


運送関係の法人の合併や会社分割は、国土交通大臣の認可が効力要件になる場合があるため要注意

一般貨物自動車運送事業、第二種貨物利用運送事業、一般旅客自動車運送事業を行う法人が合併や会社分割をする場合、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力が生じません。

 

そのため一般貨物自動車運送事業、第二種貨物利用運送事業、一般旅客自動車運送事業を行う法人の合併や会社分割の登記申請の添付書類として【国土交通大臣の認可書】が必要になります。

 

仮に定款に上記の事業目的を掲げながら、実際には事業を行っていない者(目的上事業者)が合併や会社分割の登記申請をする場合は、登記申請の添付書類として【合併等についての認可を要しない旨の主務官庁の証明書等】を添付する必要があります。

 

上記運送事業の他にも、一般旅客定期航路事業、旅客定期航路事業、定期航路事業、船舶運航事業、海上運送事業を行なう者の合併や会社分割も同じような取扱いとされています(商業登記ハンドブック第3版179頁)。