抵当権譲渡後の抵当権抹消登記の注意点

抵当権譲渡後の抵当権抹消登記と抵当権移転後の抵当権抹消登記の違い

抵当権譲渡後の抵当権抹消登記と抵当権移転後の抵当権抹消登記の方法は異なりますので注意が必要です。

 

抵当権移転後の抵当権抹消登記は、現在の抵当権者を義務者、現在の所有者を権利者として抵当権抹消登記申請をすることになります。

 

しかし抵当権譲渡後の抵当権抹消登記は、抵当権を譲渡した原抵当権者を義務者、現在の所有者を権利者、抵当権の譲渡を受けた受益者を利害関係人として抵当権抹消登記申請をすることになります。

 

この場合、抵当権抹消登記申請の添付書類として利害関係人の承諾書が必要になります。承諾書には実印の押印が必要で、印鑑証明書も提出する必要があります。ただし法人の場合、会社法人等を提供すれば法人の印鑑証明書の提出を省略できます。押された印鑑が実印かを確認するためには印鑑証明書を準備いただく必要があります。


抵当権譲渡後の抵当権抹消登記と抵当権移転後の抵当権抹消登記の方法が違う理由

抵当権移転の場合、抵当権が完全に新しい抵当権者に移転しているのに対して、抵当権譲渡の場合、抵当権と被担保債権を分けて考えて、譲渡人である抵当権者の優先弁済を受ける権利のみを同一債務者に対する無担保債権者に譲るというもの(民法376条)であり、抵当権を譲渡をしても抵当権が完全に新しい抵当権者に移転するわけではないためです。


金融機関も抵当権譲渡と抵当権移転の違いを分かっていない場合がある

抵当権抹消登記のご相談を受けて、ご相談者が金融機関からもらってきた書類が、下記の場合がありました。

□抵当権譲渡の受益者である金融機関の解除証書

□抵当権譲渡の受益者である金融機関の抵当権抹消登記委任状

□抵当権を譲渡した際の登記済証

 

これでは抵当権抹消登記できません。金融機関に連絡しても抵当権が譲渡されているのだから、この書類で登記できるはずだと言われ、理解してもらうのに相当時間がかかりました。抵当権譲渡と抵当権移転の違いや抵当権譲渡の受益者は利害関係人にすぎない旨を金融機関の担当者に説明してもなかなか理解してもらえなかったのです。


抵当権譲渡後の抵当権抹消登記のため金融機関に準備してもらうもの

 

 抵当権を譲渡した原抵当権者である金融機関に連絡をとり、下記の書類を準備してもらいました。

□抵当権譲渡した金融機関の解除証書

□抵当権譲渡した金融機関の抵当権抹消登記委任状

□抵当権を設定した際の登記済証

 

さらに抵当権の譲渡を受けた受益者である金融機関に連絡をとり、下記の書類を準備してもらいました。※金融機関に利害関係人の承諾書のひな形がないということで承諾書の作成も弊所で行いました。

□利害関係人の承諾書(実印押印のもの)

□法人の代表者が分かる登記簿(会社法人等番号の提供でも可能)

□法人の印鑑証明書(会社法人等番号の提供でも可能)


承諾書が必要な利害関係人の例

抹消される抵当権から民法376条1項の処分を受けている次の者

・転抵当権者

・抵当権の譲渡を受けている者

・抵当権の放棄を受けている者

・抵当権の順位の譲渡を受けている者

・抵当権の順位の放棄を受けている者

 

抹消される抵当権の移転の仮登記を受けている者

 

抹消される抵当権を目的として、差押え、仮差押え、質入れの登記を受けている者


利害関係人の承諾書は原本還付できるか?

抵当権抹消登記に係る利害関係人の承諾したことを証する情報は、不動産登記規則55条1項ただし書の「当該申請のためにのみ作成されたその他の書面」に該当するから、原本還付できない(抹消登記申請MEMO109頁)。

 

※しかし弊所で利害関係人の承諾書を原本還付請求してしまい、実際に原本還付できたことがありましたので、実際の法務局の運用が不明です。

 

承諾書とセットの印鑑証明書についても原本還付できません(不動産登記規則55条1項だだし書)。


登記官の職権抹消

利害関係人の承諾書を添付して抵当権の抹消登記をする場合、登記官の職権により、抵当権譲渡等の利害関係を有する第三者の権利に関する登記が抹消されます(不動産登記規則152条2項)。


他の抵当権譲渡後の抵当権抹消登記の方法

1件目で抵当権譲渡をした抵当権者を権利者、抵当権譲渡を受けた受益者を義務者として抵当権譲渡抹消登記をして、2件目で抵当権譲渡をした抵当権者を義務者、現在の所有者を権利者として抵当権抹消登記をする方法が考えられます。

 

この場合、2件の登記申請が必要なため、登録免許税が2倍かかります。弊所ではこの方法を採用したことはありません。