住宅資金貸付債権の特則

住宅資金貸付債権の特則とは、債務者がその生活基盤である自宅を保有したまま再生するための特則です。

 

住宅ローンが終わっていない状態だと、その住宅と敷地に抵当権が設定されており、このような状態で個人民事再生手続をすると、抵当権は別除権なので、原則として民事再生手続とは関係なく、抵当権者は抵当権の実行により競売手続をすることができます。そして競売されるとその住宅を立ち退かなければなりません。

 

このような事態を回避するのが住宅資金貸付債権の特則です。

住宅資金貸付債権に関する特則を使うことができる要件

この特例を使うためには、下記の要件を満たす必要があります。

 

・住宅の建設もしくは購入に必要な資金で、分割払いの定めのある債権であること

 (すなわち住宅ローンを組んでいること)

 

・住宅に住宅ローン債権(又は保証会社の求償債権)を被担保債権とする抵当権が設定されていること

 

・不動産に、住宅ローン以外の抵当権がついていないこと

 

・本人が住んでいる住宅であること

(すなわち別荘やセカンドハウスの場合は要件を満たしません。)

 

・保証会社による代位弁済後、6か月を経過していないこと

(住宅ローンの滞納が数か月続くと代位弁済されてしまします。)

※保証会社による代位弁済後、6か月以内に再生手続開始の申立がされると、保証債務の履行がなかったものとみなされ、消滅した保証債務が復活し、保証会社の求償権は消滅し、保証会社が代位取得した住宅ローン債権も原債権者にも戻されます。原債権者に支払われた代位弁済資金は保証会社に返還されることになります。

住宅ローンをほとんど返済済みの場合

住宅ローンをほとんど返済済みの場合は、清算価値がかなり高くなってしまい再生計画の月々の返済額がかなり高くなってしまう可能性があり、個人民事再生の選択が厳しくなる場合があります。

住宅資金貸付債権の特則を使う場合の手順

・個人再生の場合は、原則全ての借金の支払いをいったん停止することになりますが、住宅資金貸付債権の督促を使う予定の場合は、個人再生の申立てとともに裁判所の弁済許可を得れば、再生手続開始後も住宅ローンの返済を継続することが可能であることから、再生手続開始前も住宅ローンの返済を継続することは可能です。


・住宅資金貸付債権の特則を利用したい場合、債権者一覧表に、住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときは、その旨を記載しなければなりません。

※仮に債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をしたにも関わらず、再生計画に住宅資金特別条項の定めが無いときは、再生計画不認可の決定がされます。

 

・再生債務者は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する場合には、あらかじめ、この住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者と協議しなければなりません。また、住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者は、この住宅資金特別条項の立案について、必要な助言をしなければなりません。

 

・住宅資金貸付債権について、再生計画において、その弁済計画を、他の債権者に対する弁済計画とは別個に、住宅資金特別条項として記載する。

 

・この住宅資金特別条項においては、すでに弁済期が過ぎているのに未払いになっている元利金と、まだ弁済期が来ていないものに区別する。

 

・原則として、すでに弁済期が過ぎているものについては、一般の再生債権の弁済期間中に支払いまだ弁済期が来ていないものに関しては、当初の約定どおり支払う旨の計画とする。

 

・この計画を遂行できる見込みがないときは、最長10年、70歳まで支払期限を延長する。

 

・一般の再生債権に対する再生計画の遂行に支障をきたさないよう、その弁済期間内の住宅ローンの元本支払額を少なくすることも可能です。

住宅資金貸付債権の弁済許可制度

再生手続により、再生債権に対する手続外の弁済は禁止されます。しかし住宅ローンについて弁済が禁止されると、債務者が残元金全額に対して期限の利益を喪失することによって、その後再生計画認可決定までに多額の遅延損害金が発生する可能性があります。

 

そのため再生債務者は、下記の要件の下で、裁判所の許可を得て住宅資金貸付債権の弁済をすることができます。

 

・再生債務者が再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しなければ住宅資金貸付契約の定めにより、住宅資金貸付債権について期限の利益を喪失することとなる場合

※すでに期限の利益を喪失している場合は、弁済の許可を受けれません。

 

・住宅資金特別条項を定めた再生計画案の認可の見込みがある場合

 

弁済許可の申立は、再生手続開始の申立と同時に行えばスムーズです。

住宅資金貸付債権に関する抵当権の実行手続の中止命令

裁判所は、再生手続開始の申立があった場合において、住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがあると認めるときは、再生債務者の申立により、相当の期間を定めて、住宅又は住宅の敷地に設定されている住宅資金貸付債権に関する抵当権の実行手続の中止を求めることができます。

住宅資金特別条項の内容

住宅資金貸付契約そのまま型

再生手続開始まで期限の利益を喪失することなく弁済を継続していた債務者が手続開始後も弁済許可の申立をすることにより可能になります。

 

住宅資金貸付債権を当初の契約とおり返済していく場合は、再生計画による権利変更がされないことになりますが、この場合でも住宅資金貸付債権を当初の契約どおり弁済する旨を再生計画案に記載する必要があります。

 

実務上では、これが多数と思われます。

期限の利益回復型

再生計画認可決定までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画後認可決定後の決定時までに生ずる住宅資金貸付債権の約定利息並びに期限の利益喪失後から再生計画認可決定までに生じる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償は、その全額を再生計画の弁済期間内に支払う旨定めなければなりません。

 

再生計画認可の決定時までに弁済期が到来しない住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画の決定後の約定利息については、住宅資金貸付債権における不履行がない場合についての弁済の時期及び額に関する約定に従って支払います。

 

再生計画認可決定後は、当初の分割払いの予定通りに弁済を行うことになり、支払停止によって喪失した期限の利益は回復されます。

 

最終弁済期延長型

期限の利益回復型による住宅資金特別条項を定めた再生計画に認可の見込みがない場合には、住宅資金特別条項において、住宅資金貸付債権に係る債務の弁済期を住宅資金貸付債権において定められた最終の弁済期から後の日に定めることができます。

 

期限の利益回復型の場合は、期限の利益喪失後から再生計画認可決定までに生じる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償は、その全額を再生計画の弁済期間内に支払う旨定めなければなりません。


しかしこれにより再生債務者にとって負担が大きくなってしまい、期限の利益回復型が困難な場合、最終弁済期を延長させて負担を軽減させて民事再生させようとするものです。 具体的な月々の返済額は住宅資金貸付債権者に計算を委託して算出するこになるでしょう。

 

要件としては、住宅資金貸付特別条項による変更後の最終の弁済期が約定最終弁済期から10年を超えず、かつ、住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期における再生債務者の年齢が70歳を超えないものでなければなりません。

元本据置型

最終弁済期延長型による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可も見込みが無い場合は、一般弁済期間の範囲内で定める期間中は、住宅資金貸付債権の元本の一部及び住宅資金貸付債権の元本に対する元本猶予期間中の約定利息のみを支払うものとすることができます。

同意型

住宅資金貸付債権者の同意がある場合には、あらゆるリスケジュールが可能になり、理屈上は、元本、利息、損害金の減額を内容とするものも可能ですが、もともと全額を回収することを目的として抵当権や保証会社を利用している住宅ローン債権について、元本のカットは困難でしょう。

もしかしたら10年を超える最終弁済期の延長くらいは話し合いにより可能かもしれませんが、全て住宅資金貸付債権者次第です。

あまり現実的なものではないかもしれません。