遺留分

遺留分制度とは、被相続人が有していた相続財産について、一定の割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です。

遺留分とは、被相続人の財産の中で、相続人に最低限保障される相続財産の一定割合のことをいいます。

本来、被相続人は自分の財産を自由に処分できるはずですが、相続は遺族の生活保障及び資産形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等の機能があるため、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護という対立する要請を調和するために定められた制度です。


遺留分の侵害

遺留分の侵害とは、被相続人が生前贈与や遺贈により財産を処分をし、その結果、相続人が現実に取得できる相続財産が法定の遺留分額を満たさない状態のことです。

遺留分を侵害する財産の処分は、当然無効になるわけではなく、単に遺留分減殺請求できるにとどまります。

そのため遺留分を侵害された者は、遺留分減殺請求をしなければ、遺留分を侵害された部分を請求することはできません。


遺留分の放棄

遺留分権利者は、相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することができます。

※相続開始後であれば家庭裁判所の許可なしに相手への意思表示のみで遺留分を放棄できます。

遺留分を放棄すると、遺留分を侵害する贈与又は遺贈がなされても、遺留分減殺請求ができないため、相続争いの防止になります。

親が死後の子供同士の相続争いを懸念して、一部の子に生前贈与して、それと引き換えにその子に遺留分放棄させた上で、別の子には他の財産を相続させる旨の遺言書を作成する場合等が事例として考えられます。


遺留分の割合

総体的遺留分の割合

・直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1

・それ以外の場合         被相続人の財産の2分の1

※兄弟姉妹には遺留分が認められていません。


個別的遺留分の割合

総体的遺留分の割合×法定相続分の割合


遺留分侵害額の算定

遺留分算定の基礎となる財産額

=被相続人が相続開始時に有していた財産の価額+贈与財産の価額ー相続債務の全額

 

上記の加算される贈与財産は下記のものに限定されます。

・相続開始前1年間にされた贈与

・遺留分権利者に損害を加えることを知った贈与※遺留分を侵害する認識があった贈与

・不相当な対価でなされた有償処分

・特別受益としての贈与

※上記贈与財産は相続開始時を基準に評価して加算します。

 

具体的遺留分額

=遺留分算定の基礎となる財産額×個別的遺留分の割合

 

遺留分侵害額

=具体的遺留分額ー(遺留分権利者が相続で取得した財産額-遺留分権利者が相続により負担すべき債務額)-(遺留分権利者の特別受益額+遺留分権利者が受けた遺贈額)


遺留分減殺請求

遺留分を侵害されたときに、受遺者や受贈者に対して、その処分行為の効力を奪うことを遺留分の減殺といい、その請求をすることを遺留分減殺請求といいます。


遺留分減殺請求の相手方は、減殺の対象となる遺贈・贈与の受遺者・受贈者及びその包括承継人です。例外的に、受贈者から目的財産を譲り受けた者が、譲り受けの時点で、遺留分権利者に損害を与えることを知っていたときは、相手方となります。


遺留分減殺請求の行使は意思表示の方法によればよく、必ずしも訴えの方法による必要はありません。遺産分割協議の申入れに当然遺留分減殺請求の意思表示が含まれるとはいえませんが、被相続人の全財産を遺贈された相続人に対する遺産分割協議の申入れは、遺留分減殺によるほかないため、遺留分減殺の意思表示を含まれるとの判例があります。


遺留分減殺請求された場合、遺留分を侵害する贈与や遺贈は、侵害の限度で失効し、すでに履行されている場合は、返還を請求することができます。これにより贈与や遺贈の目的物は受贈者・受遺者と遺留分減殺請求者との共有関係になります。


遺留分減殺請求の相手方は、現物を返還するのが原則ですが、価額で弁償することも可能です(民法1041条)。

受贈者が減殺請求される前に第三者に贈与の目的物を譲渡した場合

受贈者が減殺請求される前に、目的物を第三者に譲渡したり、第三者のために権利を設定した場合には、受贈者は遺留分権利者に対してその価額を弁償しなければなりません。


受贈者が贈与の目的物を第三者に譲渡した当時、譲受人が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、譲受人に対しても減殺請求できます(民法1040条1項ただし書)。この規定は受遺者が遺贈の目的物を第三者に譲渡した場合も、類推適用されます。


遺留分減殺請求された後に、目的物を第三者に譲渡したり、第三者のために権利を設定した場合には、対抗関係の問題となり、先に登記等をした者が優先することになります。


遺留分減殺請求に関する紛争解決手続

遺留分減殺請求に関する紛争は、当事者間で協議による解決ができない場合は、裁判所に訴えを提起して解決することができます。

しかし、遺留分減殺請求に関する紛争は、被相続人の相続に関する紛争であるから、家庭裁判所の調停を行うことができ、調停前置主義により、まず家庭裁判所の調停を経なければなりません。調停申立ての管轄は、相手の住所地の家庭裁判所です。

遺産分割調停との違い

遺産分割調停の場合、調停が不成立で終了したら、調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされます。申立後の審判手続の開始は、当然に行われるものであり、当事者の申立ては必要ありません。

これに対して遺留分減殺請求の調停申立てが不成立になれば、手続きが終了してしまうので、解決したいのであれば、改めて地方裁判所か簡易裁判所に訴えを提起しなければならいません。


遺留分減殺請求権の時効

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈のあったことを知った時から1年で、時効により消滅します。

また、相続開始から10年を経過すれば権利は消滅します。