被相続人が相続開始時に有していた遺産は、被相続人の一身に専属するものを除いて全て相続の対象となります。
ただし遺産分割協議の対象となる遺産は、相続開始時に存在し、かつ、分割時にも存在する未分割の遺産です。
一見すると相続財産はみえるようなもの(例・退職金や生命保険金等)であっても、相続の対象となる遺産とはならなく、受取人固有の財産となるものもありますので注意を要します。
相続の対象となる遺産であっても、全て遺産分割協議の対象となるわけではありませんので注意を要します。
土地や建物は相続財産であり、遺産分割協議の対象になります。
不動産賃借権は相続財産であり、遺産分割協議の対象になります。これに対して使用借権は借主の死亡により消滅するため相続財産になりません。
ただし公営住宅を使用する権利については、公営住宅法の趣旨により相続性が否定されています(最判平成2年10月18日民集44巻8号1021頁)。
現金は相続財産であり、遺産分割協議の対象となります。
預貯金等に金銭債権は、相続財産であり、遺産分割協議の対象になります。
株式は相続財産であり、遺産分割協議の対象となります。株式は不可分であり、遺産分割がされるまでは共同相続人が準共有している状態とされています。
投資信託は相続財産であり、遺産分割協議の対象となります。可分債権かどうかは投資信託の種類により異なります。
自動車は相続財産であり、遺産分割協議の対象となります。
遺産から生じた果実は、遺産ではなく、各相続人が相続分で取得する共有財産との判例があり、相続財産ではなく、遺産分割の対象とはなりませんが、実務上は相続人の合意により遺産分割の対象にすることができます。
401Kの加入者がお亡くなりになった場合、ご遺族は死亡一時金の請求をすることができます。
加入者本人があらかじめ配偶者、子、父母、孫、祖父母、または兄弟姉妹の中から死亡一時金の受取人を指定していた場合は、その方が受取人となり遺産分割の対象となりません。
上記の指定が無い場合、確定拠出年金法に基づき、下記の順位で受取人になり遺産分割の対象にならないことに注意が必要です。
①配偶者(死亡の当時、事実上婚姻関係と同様の事情があった者を含む。)
②子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって、死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していた者
③②の他、死亡の当時、主としてその収入によって生計を維持していた者
④子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって②に該当しない者
※同順位内であれば、その並びの順番により順位が定められます。
※同順位者が2人以上いる場合は、その人数によって等分して支給されます。
401K加入者が亡くなって5年間請求が行われない場合、死亡一時金を受け取るご遺族がいないものとみなされ、亡くなった方の相続財産とみなされます。つまりそれまでは401の死亡一時金は相続財産ではないということになります。
ただし相続税の対象にはなります。(みなし相続財産(退職手当金等)として法定相続人1人あたり500万円まで非課税となります。)
故人が年金を受け取る前に亡くなったとき、又は年金(老齢基礎年金・障害基礎年金・遺族基礎年金・寡婦年金)を受け取る権利はあったが請求しないうちになくなったとき、未支給年金は相続財産ではありませんので、遺産分割協議の対象外となります(最高裁平成7年11月7日判決)。
未支給年金は、国民年金法19条により、死亡日において、亡くなった方と生計を同じくしていた次の遺族が1~7の順位により受け取れます。
1配偶者、2子、3父母、4孫、5祖父母、6兄弟姉妹、7左記以外の3親等内の親族
※未支給年金を受け取るべき同順位の遺族が2人以上いる場合であって、そのうち1人がした未支給年金の請求は、全員のためにその全額についてしたものとみなされます。
なお厚生年金法37条にも同じような規定があります。
未支給年金は相続財産ではありませんので、相続税の対象とはなりませんが一時所得として取り扱われます。
死亡退職金の受給権者が、法律や内部規定等で定めれている場合は、その死亡退職金は受給権者の固有の権利であると解釈されているため相続財産とはならず、遺産分割の対象になりません。(最高裁昭和55年11月27日判決)
これに対して受給権者が、法律や内部規定で定められていない場合は、判例上も見解が分かれていますので個別に検討しなければなりません。
生命保険金が遺産分割の対象になるかは、保険金受取人が誰かによって変わってきます。
【保険金受取人を特定人(例、配偶者)としていた場合】
生命保険金は特定人固有の財産となるため、相続財産とはならず、遺産分割協議の対象になりません。
【保険受取人を被保険者としていた場合】
保険金受取人の相続財産となり、相続の対象となり、金銭債権なので相続人の合意により遺産分割協議の対象となります。終身保険の場合は、通常このような契約はありませんが、医療保険等でこのような契約が考えられます。
【保険金受取人を相続人としていた場合】
各相続人が固有の保険金請求権を持つことになりますので、相続財産とはならず、遺産分割協議の対象になりません。受取割合は保険会社の約款によりますが、約款に規定がない場合は、法定相続分によります。
【保険受取人を指定しなかった場合】
保険約款に通常は相続人に支払う旨の記載があるため、上記の場合と同様です。
交通事故等で死亡した場合、被害者は加害者に対して損害賠償請求権が発生します。例え即死の場合であっても、被害者が重症であった場合とのバランスをとるため、被害者自身が損害賠償請求権を取得するものとされ、これは相続の対象となります。
なお慰謝料請求権も金銭債権であることにかわりはなく、相続の対象とされています。
損害賠償請求権も慰謝料請求権は金銭債権ということであれば、可分債権なので遺産分割の対象にはなりませんが、相続人の合意により遺産分割の対象とすることが可能です。
なお損害賠償請求権は相続財産ですが、下記個別通達によると、相続税は課税されません。
【個別通達昭和57年5月17日】
被相続人について不法行為による生命侵害があった場合において、その遺族がその生命侵害に基づいて受ける損害賠償金は、相続税の課税価格に算入しないものとする。
金銭債務は、相続により当然に当然に各相続人に法定相続分で承継されるため、遺産分割の対象ではありません(最判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)。
ただし、一部の相続人が債務を承継する旨の合意は相続人間の内部的な負担割合の合意としての意味はあります。
債権者の承諾があれば債務を免れることができます。