この度亡くなった父の遺産は二人兄弟のうちの兄が今回は自分が相続し、その代わり将来の母の相続時には母の遺産は全て弟である私に譲ると約束すると言っているが、兄を信じて遺産分割に合意して大丈夫ですかという相談がありました。
なんとも回答に困る相談でした。父の相続と母の相続は別ものなので、この兄の将来の母の遺産分割の約束が、確実に守られる保証はありません。生前に遺産分割の約束をしたと言っても法律上、生前の遺産分割協議は認められていませんし、調停や審判でこの約束を実現させるのも困難です。何も対策をしていないと母の相続時に兄弟でもめる可能性があります。
少しでもこの兄に約束を守らせる確率を高くしたいのであれば、母に事情を説明した上で母に遺産を弟に相続させる遺言書を作成してもらう必要があります。しかしこれだけでは兄から遺留分減殺請求されるリスクがあるので、兄には母の相続に関する遺留分の放棄をしてもらう必要があります。
また父の遺産分割協議書の中に、母の将来の相続の際の約束について記載しておき、この約束が守られない場合、父の遺産分割協議の無効を主張できる可能性を残しておくことも大切だと思います。証拠を残しておけば、兄が約束を守る可能性が高まります。
ただし、母に遺言書を作成してもらっても、兄に言われて母が遺言を撤回する可能性はありますし、遺留分放棄の許可審判の取消しの可能性もわずかにあるので、やはり兄の約束を信じて父の遺産分割に合意するのはリスクがあると思います。
なお父の相続に関して兄が全部相続して母は何も取得しなかった場合、母の相続時に母から兄への特別受益が主張できる可能性はありますが、裁判官によっては別事件ということで特別受益の主張を受け付けない可能性もあります。
司法書士 佐藤賢