任意後見契約と遺言の範囲内では、死亡後すぐに行わなければならない事務手続を任意後見人に法的な拘束力をもってやってもらうことができないので、死後事務委任契約が必要になります。
任意後見契約は委任者の事理弁識能力が低下し任意後見監督人が就任した後、委任者が死亡するまでの財産管理等の処理をする事務の契約です。
遺言は遺言者が死亡した時から効力を生じますが、遺言の内容は法定されており、それ以外の事項(遺体の引き取り、通夜、告別式、火葬等の執行及び納骨、入所施設への支払、入所施設の明渡等)を遺言書に記載しても付言事項に過ぎず、法的拘束力がありません。
そのため、任意後見契約の委任者や遺言者が自分の死後の手続きを誰かに確実に任せたい場合は、死後事務委任契約を締結しておく必要があります。
死後事務委任契約を公正証書でする必要があるとの法律上の規定はありませんが、実務上は任意後見契約と共に公正証書で作成することが多いと思われます。死後事務の内容によっては、相続人の利益に反する事務もあり、委任者の明確な意思として行った事務であることを証明できるようにしておくことが必要です。そのため公証人等第三者にも契約に関与してもらって公正証書に死後事務委任契約の内容を残しておけば将来の紛争を防ぐことができます。
死後事務委任契約を締結するときに、委任者の死亡によって契約は終了しない旨の特約をつけて契約します。そして委任者の死亡によって相続人が委任者の地位を相続するため、受任者は相続人の受任者となります。死後事務委任契約が相続人によって解除できるとしたら委任者の想いが現実化できませんので、契約締結時に委任者の解除権を放棄する特約をします。委任者と受任者でなされた解除権放棄特約付死後事務委任契約の委任者の地位を相続人は包括的に承継しますので、相続人は死後事務の範囲が合理的な範囲である限り、解除することはできません。