相続税の生前対策

遺言書を作成する際、財産を一定程度お持ちで相続税の課税対象になりそうな方は相続税の対策も考えた方がよいでしょう。2015年からは相続税の基礎控除額が下がり、相続税の課税対象者が増えることも予想されていますので、生前対策が今まで以上に重要になると思われます。ここでは相続税の生前対策について検討したいと思います。

 


贈与税の基礎控除(110万円)を使った財産の減少

贈与税には贈与を受けた財産の額から控除できる基礎控除があります。現在基礎控除の額は110万円となっており、年間110万円までの贈与であれば贈与税は課税されません

しかしこのような贈与の場合、贈与の実態を作っておかないと親の財産と認定される可能性があるので、いくつか気をつけなければならない点があります。

・ 贈与契約書を作成しておく

・ 口座振り込みで資金の流れを明確化する

・ 贈与された現金の入った預金通帳や印鑑、カード等は子供が管理する。

・ 親名義の通帳の印鑑とは別の印鑑にする

・ あえて111万円の贈与をして、1000円の贈与税を支払い贈与の証拠を残す。

・ 子供が財産管理能力のある年齢(15歳以上)であること


おしどり夫婦の贈与を使った財産の減少

おしどり夫婦の贈与の特例とは、結婚して20年以上経った夫婦間で、マイホーム又はマイホームの購入資金を贈与しても、2000万円の控除が認められる制度で、贈与税の基礎控除と合わせると合計2110万円まで贈与額がかからず贈与できます。

 

おしどり夫婦の贈与の特例の適用要件

・婚姻期間が20年以上であること

・居住用不動産の贈与又は居住用不動産取得のための金銭の贈与であること

・贈与の年の翌年3月15日までに夫婦が居住し、かつ引き続き居住する見込みがあること

・土地または借地権のみの贈与の場合、家屋の所有者が配偶者又は同居している親族であること

・贈与税の申告を行うこと(例え無税であっても)

 

おしどり夫婦の贈与の特例を受けている財産については、例え3年以内の贈与であっても相続税の課税価格に加算する必要はありません。


相続時精算課税制度を使った贈与

相続時精算課税制度では、子や孫1人につき2500万円まで贈与することができます。仮に2500万円を超えた場合、その超える部分には20%の課税がされます。その贈与税は相続税の先払いとして控除できます。先に支払った額のほうが相続税より多い場合には、その差額の還付を受けれます。

子や孫がまとまった財産を早期に手にできるので、事業承継や生前に確実に渡したい財産がある場合に使われます。

生前に子や孫の名義になるので、遺産分割協議の対象にならないので相続トラブルの回避になります。

この制度による贈与財産は将来相続財産と合算されますが、その場合の合算価額は贈与時の価額とされています。その結果、将来値上がりしそうな財産を今の安い時価で贈与すると結果的に節税となります。

相続時精算課税制度のデメリット

いったん相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度に戻れないため、110万円の基礎控除は永久に使えません。

相続税課税対象の方にとっては、現金の贈与を相続時精算課税制度で行っても相続税対策にはなりません。贈与した現金がそのまま相続時に相続財産に加算されるからです。節税という観点では、暦年課税で毎年こつこつ贈与した方が、相続税の生前対策にはなります。

ただし、相続税の対象外になりそうな方(相続税の基礎控除に財産が収まりそうな方)については、相続税は気にしないでいいので、早めに子供に財産を渡せる相続時精算課税制度は有用だと思います。

この制度による贈与財産は将来相続財産と合算されますが、その場合の合算価額は贈与時の価額とされています。その結果、将来値下がりしそうな財産を今の高い時価で贈与すると結果的に相続税が高くなるリスクがあります。

 


アパート等収益物件を生前贈与

相続時精算課税制度を使って、現金ではなくアパート等収益物件を子に贈与します。子はその贈与された収益物件から家賃収入を得て、親の相続財産になるはずだった家賃収入を子が取得できるようにし、親の相続財産の増加を抑えることができます。

さらに子が家賃収入を得ることにより、子が将来の相続税の納税資金を蓄積することができるのです。


養子縁組をして基礎控除を増やす

基礎控除を増やすことができれば、結果として相続税の節税になります。基礎控除額は2015年以降は、3000万円+600万円×法定相続人の数となります。そのため子供が多ければ基礎控除も増えて相続税の節税になります。子供の数は養子縁組で増やすことができます。例えば同居している子の妻にも相続財産を渡したいと思っているのであれば、養子縁組すればその妻も相続人になり相続財産を受けとつ権利が発生しますし、基礎控除も増えるので検討してもいいかもしれません。ただ他の兄弟からは不満が生じる可能性があるので説明が必要かもしれません。

ただし相続税法上基礎控除額の計算に入れられる養子の数は、実子がいなければ2人まで、実子がいる場合は1人までと制限されています。

なお子が増えれば死亡保険金の非課税制度でも計算上有利になります。

非課税限度額=500万円×法定相続人の数


非嫡出子を認知する

非嫡出子を認知すれば、相続人の数が増えるので相続税の基礎控除額が増え、生命保険金の非課税限度額は500万円×相続人の数なので、非課税額が増えます。認知がない非嫡出子の場合に対し、相続財産を遺贈した場合は、相続税の2割加算が適用されますが、認知すれば相続人になるので、2割加算の適用が無くなりますので節税になります。

ただし、認知には様々な事情が絡んでくると思いますので、節税だけのために認知するケースはあまりないでしょう。


現金、預貯金、有価証券を不動産にして評価額を下げる

現金、預貯金、有価証券はその金額そのものが相続財産の価格となります。それらの財産を不動産に変えれば、相続税の節税対策になります。

それは土地の評価は路線価で計算され、路線価は地価公示価格の8割前後といわれています。建物の評価は固定資産税評価額を使用して計算します。建物の固定資産税評価額は時価の60%から70%といわれています。そのため相続税の計算上、現金、預貯金、有価証券をもっているより不動産を持っていた方が節税になります。しかし不動産は持っているだけだと固定資産税が無駄にかかり、有効活用しなければ意味がありません。そのため賃貸マンションやアパートを建築して相続税評価額をさらに下げて、有効活用するという選択肢があります。さらに小規模宅地特例を使えば減税できます。ただしマンション経営やアパート経営は入居者が集まらないリスクがあり、その場合、節税どころか結局損をする可能性もあるのでよく検討しなければなりません。


土地の測量や整地は生前にやる

相続後、土地の売却を予定しているのであれば、被相続人の生前に測量や整地をしてしまい相続財産を減らしましょう。なお測量により登記簿上の土地面積より実測面積が増加する場合がありますが、この場合実測面積で相続財産の評価額を計算します。そのため場合によっては実測しないほうが実測後より評価額が低い可能性があります。


広い土地の分筆

広い土地を分筆することにより、土地の評価額を下げることができる可能性があります。例えば表通りと裏通りに面している土地の場合、表通りに面していると路線価が高くなるので、分筆して表通りぬ面する土地と裏通りに面する土地にすれば、裏通りに面する土地の評価額は下がり、結果として節税になります。


家屋の修繕は生前にやる

建物の修繕費、改築費として現金、預金を使えば相続財産ではなくなります。固定資産税評価額は当初建築したときの実際の建築費の60%から70%となっており、経年で減価償却費相当分が減額されます。建物は修繕、改築により実際の価値は上昇しますが、相続税法上の評価方法では、固定資産税評価額が増加しなければ相続税評価額は増加しません。ただし大規模修繕の場合で、耐用年数が伸びるような建物価格の著しい増加があった場合は、固定資産税評価額が上がる可能性もあります。


墓や仏壇は生前に購入する

被相続人の遺産の中にも、相続税が課税されない財産があります。例えばお墓、仏壇、祭具等です。これらは非課税財産として相続財産から除かれます。そのため生前にこのような非課税財産を購入しておけば相続税の節税になります。


生命保険の活用

生命保険は、死亡、病気等の将来の備えといった目的で加入するものですが、相続の対策においても有用です。

 

・生命保険金は500万円×法定相続人の数まで非課税になります。

・生命保険金を納税資金に充てる。

・残された遺族の生活資金に充てる。

・不動産の代償分割の代償金に充てる。

 

生命保険金は相続財産ではないものの、相続税の課税対象とはなりますので注意が必要です。


同族会社への貸付金は債権放棄する

同族会社の経営者は、会社運営のために個人の資金を会社に貸し付けていることはよくあります。この貸付金は、相続が発生したときには、同族会社に対する貸付金として、その金額そのものが相続税算定の評価額となってしまいます。同族会社の財務内容が悪く、貸付金の返済の見込みがない場合は、事前に債権放棄をしてしまったほうがいいかもしれません。

ただし会社側は、債務を免除された金額が収益として法人税の対象となってしまいます。この課税を最小限に抑えるためには、債権放棄のタイミングが重要です。繰越欠損金の状況、役員退職金の支払い時期等、債務免除額を吸収できる年度に行うがよいので、顧問税理士に相談するとよいでしょう。